彼のその言葉を聞いた時、変な感じがした。言語化しにくい。とにかく、何か、変だった。それまで、合わせられなかった視線を、合わすことができた。冷静さを欠いていた頭の中が、覚めるような感覚がした。
私は、何かを勘違いしかけていた。
大きな罪を、犯すところだったと、なぜかそう思った。
「それは、駄目だよ」
私の口から発された声は、先ほどとは違って、しっかりとしていた。
「私は、アキには見合わないよ」
その言葉を聞いたアキは、目を見開いた。そんなに驚くことだっただろうか。そして、すっと私から視線を逸らした。表情は読み取れなかった。彼はゆっくりと立ち上がる。
「え、あ、もう大丈夫なの?」
「ん、酔い覚めた」
ふぅ、と一つ息を吐いて、彼はにこりと私に笑いかける。
「ごめん、変なこと言って。さすがに飲みすぎた。」
さっきまであんなにふにゃふにゃで覚束ない足取りだったのに、彼はいつもと変わらなかった。いや、いつも以上に、きちんとしているようにすら思えた。
「さっきのは忘れて。そろそろ帰った方がいいんじゃない?ご両親心配してるでしょ」
「え、あ……うん」
「じゃ、おやすみ。気を付けてね」
彼は私に背を向けてネクタイを外し、その手でひらひらと手を振る。
ゆらゆらと揺れるネクタイと彼の姿が遠ざかって、バタンと扉が閉まった。暗い廊下に取り残される。
私は、何かを間違ったのだろうか。最後に見た彼の瞳は冷めきっていて、これまで私に向けていたものとは違った。そう思って思い返すけれど、何も間違ったことなんてないはずで。
「……おやすみ」
届くことのない言葉を呟いて、彼の家を出る。夜風は冷たい。もう季節は冬なのだから当たり前だけれど、それだけでないような気がしていた。
私は、何かを勘違いしかけていた。
大きな罪を、犯すところだったと、なぜかそう思った。
「それは、駄目だよ」
私の口から発された声は、先ほどとは違って、しっかりとしていた。
「私は、アキには見合わないよ」
その言葉を聞いたアキは、目を見開いた。そんなに驚くことだっただろうか。そして、すっと私から視線を逸らした。表情は読み取れなかった。彼はゆっくりと立ち上がる。
「え、あ、もう大丈夫なの?」
「ん、酔い覚めた」
ふぅ、と一つ息を吐いて、彼はにこりと私に笑いかける。
「ごめん、変なこと言って。さすがに飲みすぎた。」
さっきまであんなにふにゃふにゃで覚束ない足取りだったのに、彼はいつもと変わらなかった。いや、いつも以上に、きちんとしているようにすら思えた。
「さっきのは忘れて。そろそろ帰った方がいいんじゃない?ご両親心配してるでしょ」
「え、あ……うん」
「じゃ、おやすみ。気を付けてね」
彼は私に背を向けてネクタイを外し、その手でひらひらと手を振る。
ゆらゆらと揺れるネクタイと彼の姿が遠ざかって、バタンと扉が閉まった。暗い廊下に取り残される。
私は、何かを間違ったのだろうか。最後に見た彼の瞳は冷めきっていて、これまで私に向けていたものとは違った。そう思って思い返すけれど、何も間違ったことなんてないはずで。
「……おやすみ」
届くことのない言葉を呟いて、彼の家を出る。夜風は冷たい。もう季節は冬なのだから当たり前だけれど、それだけでないような気がしていた。