先ほどとはまるで別人だった。余裕そうな、大人の表情。悪い、大人。
 彼は、徐に起き上がり、私の上に、覆いかぶさるような体制をとる。

「ふは、ひよ、顔赤いよ」
「そ、れは……アキが」
「俺が、何」
「何って」

 顔が近い。アルコールの香りと、熱い吐息が、頭をおかしくさせる。こんな彼を、私は知らない。

「ね、何か、あったの」

 辛うじて出した声は、彼に届いたようだった。しかし彼は、緩く笑うだけで、それに答える気などないようだった。

「ひよ」

 甘い声が、また私の名前を呼ぶ。少し、怖いと思った。逃げ出したくなった。

「ひよは、俺のこと」

 先ほどと似た台詞。しかし、それはさっきとは少し違った。声色と彼の表情で、明確だった。

「好き?」

 真っ直ぐな視線。その視線を絡めることに、躊躇いがあった。好きか、なんて。そんなの、ずるい。
 目を合わせられないまま、こくりと頷く。顔が熱くなる。変に、緊張している。

「じゃあさ、俺と、付き合う?」