私の家までの道のりを、アイスを食べながら歩く。車のヘッドライトで、たまに二人の影は伸びては消えを繰り返していた。

「今日、ごめん。引き留めて」

 ぽつりと、彼が呟くように言う。

「んーん。いいよ」

 私がそう答えると、彼はまた、少し躊躇いながら口を開く。

「ちょっと、悪い夢見て」

 理由を言わなければならないと思っているらしい。私としては無理に聞き出す気などないけれど。

「それで、ひよのこと引き留めた」

 「子どもみたい。ごめん」と彼は続けてまた謝る。彼が今日少し様子がおかしかったのはそのせいらしい。

「もういいの?」

 もうあと数メートルで家に着く。彼を一人にしていいのか、いや、寧ろ一人にした方がいいのか。それとも、私でも、彼の傍にいることで、彼が救われたりするんだろうか。
 彼は私の問いかけに一度視線を下げ、「うん」と顔を上げて私と目を合わせる。その表情は、先ほどの何かに怯えるような子どもの表情ではなく、少し大人の表情。

「ひよのご両親、心配するでしょ」

 確かに、2日連続で泊まるというのは、両親を不安にさせるかもしれない。それでも、優先すべきは彼だと、思っているのだけれど。

「……一人で大丈夫?」

 その言葉に、彼は「ははっ」と面白そうに笑う。

「何それ。俺ひよより年上だし、なんなら大人なんだけど」

 「成人男性にする質問じゃないでしょ」と笑う彼は、いつも通り。少しからかうようなニュアンスを含めた、そんな声色。
 それが本当に大丈夫なのか、それとも強がっているのか、私に判断はできなかった。彼は掴みどころがない。そんなところが魅力でもあり、どこか遠く感じるところではあった。お子様の私に、彼を理解することなど不可能なのだろうか。

「わかった。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ。明日は日曜日だし、のんびり過ごしなよ」
「ありがとう。アキも」
「うん。じゃあ」

 それだけ言葉を交わして、家の中に入る。少し溶けた食べかけのアイスを口に放り込む。彼と離れても、やっぱり私は彼のことを考えていた。