「ごめん、私、もう帰る」
やっとの思いで、言葉を発した。声は震えていた。息苦しさを自覚して、呼吸すらままならなかったことに気づく。
「え、もう?」
彼女の瞳が私自身を捉えた。
「用事、思い出した。ごめん急に」
彼女は「ううん」と首を振り、「私も突然誘ってごめんね」と返してくる。私の中にある数少ない、私の知っている彼女だった。
「気を付けてね。それと、また、遊びに来てくれると嬉しいな」
彼女に答えた「うん」という言葉は、前者の私への気遣いに対する返事だった。再度彼女に会う勇気はもうなかった。
軽く手を振って、私は足早にその場を去る。角を曲がって、自分の息が乱れていることに気づいて立ち止まった。
私は、彼女とは違う。彼の信者とは、違う。
頭の中にそれが言語化されて浮かんできた時、少しだけ呼吸が楽になった。彼女のように、ひよの存在を望まない人がいるのだろう。彼に近寄る全ての人間を、邪魔だと感じる人がいるのだろう。
スマートフォンが鳴った。メッセージの着信音だ。画面に表示される彼の名前を見て、トーク画面を開く。
『了解』
そのたった二文字。私が朝に送ったメッセージに返されたその言葉だけで、心に波が立っていたのが止む。存在を許されているように感じる。スマートフォンをしまって、足を踏み出す。少し乱れていた呼吸は整っていた。
やっとの思いで、言葉を発した。声は震えていた。息苦しさを自覚して、呼吸すらままならなかったことに気づく。
「え、もう?」
彼女の瞳が私自身を捉えた。
「用事、思い出した。ごめん急に」
彼女は「ううん」と首を振り、「私も突然誘ってごめんね」と返してくる。私の中にある数少ない、私の知っている彼女だった。
「気を付けてね。それと、また、遊びに来てくれると嬉しいな」
彼女に答えた「うん」という言葉は、前者の私への気遣いに対する返事だった。再度彼女に会う勇気はもうなかった。
軽く手を振って、私は足早にその場を去る。角を曲がって、自分の息が乱れていることに気づいて立ち止まった。
私は、彼女とは違う。彼の信者とは、違う。
頭の中にそれが言語化されて浮かんできた時、少しだけ呼吸が楽になった。彼女のように、ひよの存在を望まない人がいるのだろう。彼に近寄る全ての人間を、邪魔だと感じる人がいるのだろう。
スマートフォンが鳴った。メッセージの着信音だ。画面に表示される彼の名前を見て、トーク画面を開く。
『了解』
そのたった二文字。私が朝に送ったメッセージに返されたその言葉だけで、心に波が立っていたのが止む。存在を許されているように感じる。スマートフォンをしまって、足を踏み出す。少し乱れていた呼吸は整っていた。