彼女の家に着くまで、会話は特になかった。
 着いた彼女の家は一軒家で、彼女のお母さんが嬉しそうに私を迎え入れてくれた。

「ちょっと待っててね」

 私は彼女の部屋に通され、彼女は部屋を出て行く。私は言われた通り座って待つことにし、何気なく部屋を見回す。そこに、BLUE PILLのCDを見つけた。

「ごめんね、お待たせ」

 彼女はジュースの入ったコップ二つとお菓子の置かれたトレイを持って現れた。

「志島さんの好きなジュースとお菓子分からなくて…オレンジジュースとクッキー、嫌いじゃないかな?」
「うん。ありがとう」

 彼女は私の返事に安心したように微笑み、私の正面に座った。

「突然誘っちゃってごめんね、驚かせちゃったよね」
「いや、大丈夫」

 申し訳なさそうな表情を、出会って2、30分で何度も見ている。彼女はそういう子だった。周りに気を遣ってばかりで、謝ってばかりで。不器用な子なのだろうと思っていた。私とは少し違う、でも、同じように不器用な。

「志島さんに会えてびっくりした」
「うん、私もびっくりした」
「私、こういう風に話せる人、志島さんしかいなくて…だから、嬉しくて」
「私も声かけてもらえて嬉しかったよ」

 彼女の言葉は純粋で、私はそれに上手く返せない。話を広げる器用さを持ち合わせていない私は、口角を上げて頷くしかできない。自分の不器用さを嫌なほど感じた。

「…BLUE PILL、好きなの?」

 だから、この話題を振ったのは、なんとなくだった。ただ間を繋げるために、私も何か話題を出さなくてはという思いからだった。