ふっと意識が浮上して、目を開ける。カーテンの閉まった薄暗い部屋。ゆっくりと体を起こすと、昨日までの気怠さは消えていた。カーテンを開けて、部屋を見回す。彼の姿はない。いつも通り乱雑に脱ぎ捨てられた服を拾い集めて洗濯機に放り込む。いつもならココアを飲み干したマグカップが置かれていて、それを洗うのも私の役割なのだが、今日はココアを淹れてあげることができなかったからそれもない。

「にゃあ」

 足元の鳴き声の主が、私を見上げていた。

「おはようリンさん」

 すり寄る彼が可愛らしくて、彼の頭を撫でた。

「アキは無事に起きられてましたか」
「にゃあ」

 肯定とも否定ともとれない鳴き声に「そうですか」とだけ返す。そういえば、リンさんはいつも日中は外にいるはずだ。そして、夕方や夜にふらりと帰ってくる。恐らく彼が出かけるときにリンさんも外に出ているのだろうけれど、なぜか今日は家の中。

「もしかして、私のお守りでも任されました?」
「にゃあ」

 肯定のような気がした。リンさんはふらりとどこかに歩いていく。その様子を見て、自分の本業を思い出す。あ、遅刻。慌ててスマートフォンの画面を見て、そこに表示されていた"(土)"にほっと息を吐く。不幸中の幸い。
 昨日迷惑をかけたのだ。今日は夕食でも作って帰ろう。そう思って、彼にその旨のメッセージを送る。彼はまめに返事を返す方でもないから、特に返答は期待していない。もしメッセージを見ずに食べて帰ってきたら、その時は朝食にでもしてもらおう。