次に目を開けたとき、私の視界には天井が広がっていた。綺麗とは言えない天井。お金あるんだから引っ越せばいいのに、と何度か言ったけれど、「無駄遣いはよくないじゃん」と言って彼は聞く耳を持たなかった。そんなどうでもいいことを思い出す。

「目が覚めた?」

 記憶の中と同じ声がした。声のする方に視線を向けると、彼が私を見下ろしている。もう帰って来てたのか。気づかなかった。というか、なんで私は横になっているんだろう。さっきまで椅子に座っていたはずなのに。

「びっくりしたよ、帰ってみたら倒れてんだもん」

 セットされた髪と伸びきったシャツというアンバランスな服装の彼にそう言われる。あのまま気を失っていたらしい。それにしても倒れてしまうなんて。
 彼も仕事から帰ってきて疲れているだろうし長居はよくないだろう。そう思って体を起こそうとして、彼の「だめー」という緩い口調と共にゆっくりと倒される。

「熱あるからじっとしてなよ」

 そう言われて自覚がなかったため驚いた。それと同時に何となく体が怠く感じて、大人しく横になる。

「...ひよ、声出る?」

 先ほどからされるがままで彼の言葉に何も返していなかったことに気づく。彼は心配そうに私を見つめていて、少しだけ申し訳なくなる。

「ごめん、出る」

 自分が思っていたより声量は小さくかすれていたけれど、彼は安心したように「ならよかった」と返した。

「今日は泊まっていきなよ」

 続けて彼がそう言って、思わず「えっ」と声を出してしまった。

「ひよのご両親にはもう連絡したから」

 なんでもないことのようにそう言う彼に、戸惑いつつも頷いた。