そんな風に考えられるのも、彼のおかげだろうと思った。彼が私の私生活とBLUE PILLとを分けてくれているからだ。彼にそのような意図があるのかは分からない。ただ単純に、私のプライベートに興味がないだけかもしれないけれど。

 少しスクロールして、私はまた手を止めた。

"千明暁は本物の天才。神様だと思う"
"千明暁のおかげで私は救われた"

 そんな、彼を崇拝するようなコメントが目に入ったからだ。

"何度も死のうと思った。でも、彼の曲のおかげで今も何とか生きてる"
"彼の曲は何人もの救いになってる"

 彼を神だという人々のコメントはいくつも見てきた。それだけ彼の才能は秀でているのだろう。私には理解しきれないままだけれど。しかし、ここにいくつもあるコメントは、今まで見た中でも過度に彼を崇めるようなものだ。

"彼の音楽がもしこの世からなくなったら、俺は生きていけないと思う"
"千明暁がもしいなくなったら、私は本気で死ぬ"
"千明暁は僕の神様"

 それほどまでに、彼の音楽には力があるのだろうか。一人じゃない。何人もの人間が彼の音楽を、いや、彼自身を神だと崇めて、命をも差し出そうとしている。大袈裟な比喩なのかもしれない。しかし、そうとも言い切れないくらいに過激な言葉が並んでいた。その異常さに、寒気を感じた。

"BLUE PILLは私の生きる意味"

 BLUE PILLは。その言葉を見た瞬間に、吐き気を感じた。唾を飲み込んで、スマホの画面をオフにする。真っ暗な画面に映る私の顔は、何かに怯えるような、そんな表情をしていた。言葉では言い表せない、恐怖のような、得体の知れない何か。
 浮遊感のようなものを感じた。決して心地よくはない。不安定で、ふわふわする。宙に浮いたまま戻ってこられないんじゃないか。目を閉じて、どうにかやり過ごそうとする。