粗方彼の部屋を片付け終え、いつも通り椅子に座ってぼんやりとスマホを見る。世にいうエゴサと呼ばれるものを、私はあまりする方ではなかった。肯定的な評価も良く目にする。しかし、悪口もまた当たり前に書かれている。探しに行かずとも目に入る。神と呼ばれる彼に近づく得体の知れない女を気に食わない人は案外多くいた。それを分かっているからこそ、わざわざ傷つきに行く必要もないと考えていた。だから、検索ボックスにBLUE PILLと打ち込んだのは、単なる気まぐれだった。
 ずらりと並ぶ検索結果。最近出した動画、記事。その中にあった、匿名掲示板サイト。興味本位で開くと、誰かも分からない人々が私達について多くのコメントを残していた。

"BLUE PILLの曲めっちゃ好き。毎日聴いてる"
"カラオケでBLUE PILL縛りしたけど楽しすぎた"
"千明暁とひよって付き合ってんのかな?"

 よく見る類いのコメントが大半を占めていた。肯定的なコメント、私達の関係を気にするコメント。

"BLUE PILLの良さがわからん。なんでそんなに人気なの"
"ひよの声が無理"
"歌詞そんなにいい?正直意味分からない"

 その中に否定的なコメントも多くあった。しかし、それを見てもあまり傷ついていない自分に気がついた。直接受けとめれば傷つきそうなコメントだが、なぜか冷静に眺めることができている。それはなぜなのか。少し手を止めて考えて、一つの結論に辿り着く。そうか、私の中で志島陽頼とひよは別なんだ。
 私は志島陽頼であり、ひよだ。志島陽頼が否定されてもひよの部分が傷ついていなければ、ひよが否定されても志島陽頼の部分が傷ついていなければ、私は本当に傷つくということから逃れられているのかもしれない。