初めて取材を受けたあの日から2ヶ月が経った。あれから何度かインタビューを経験し、少しは取材にも慣れてきたように思う。そして、放課後に彼の家を訪ねても彼が留守にしていることも多くなりつつあった。メディアで取り上げられることも増え、街中で私達の曲が流れていることも増えた。

 いつも通り放課後に彼の家に寄る。彼の姿はなく、脱ぎ散らかされた服やカップ麺のゴミを片づける。最早それに疑問を抱くこともなくなってきた。高校生と歌手と千明暁専属の家政婦の3足の草鞋。物理的にはそんなに履けない。それでもそれをこなすことが苦でないのは、彼と共にいる居心地の良さからだろうと思った。

 思うに、彼は人の中に深く立ち入ることをしないタイプの人だ。彼に高校での生活を聞かれたことはない。家族のことも、説得はしてくれたもののそれ以降家を訪ねてくることはないし、話題にすることもない。ただ、それが私にとって心地よかった。普通の高校生としての自分と、BLUE PILLとしての自分がきちんと分けられ、生活のペースが保ちやすかったのだ。
 しかし、普通の高校生として過ごしている時間も、私の中には彼の存在があった。二度寝していないか、仕事の時間に間に合っているか。外面のいい彼であるから、そんな心配は杞憂に終わることは分かりきっていた。それでも、彼のことを考える時間は日々の中に散らばっていた。