結局翌日には、彼に取材を受けると返事をした。ポジティブな理由ではない。彼にばかり負担を背負わせるのはさすがに悪いと思っただけだ。取材はアキが承諾の返事をした一週間後だった。

「本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 隣にいるいつもより姿勢の良いアキの隣で、私も頭を下げる。穏やかな笑みを浮かべるインタビュアーに、なぜか少しだけ恐怖に似たものを覚えた。

「では、早速始めさせていただいてよろしいですか」

 目の前に置かれたホットコーヒーの湯気を見ていると、インタビュアーがそう言ってレコーダーを手にした。軽く口角を上げて頷く。ちらりとアキの方を見るとやはりいつもとは別人で、赤の他人に囲まれているような不安がじわりと滲むような感覚がした。

「まずは、デビューアルバムの発売、おめでとうございます」

 形式的な言葉に、「ありがとうございます」とアキも私も形式的に答える。

「お二人の出会いについて教えていただけますか」
「僕が声をかけました。たまたま彼女の歌声が聴こえて、この声で自分の曲を歌ってほしいと思ったんです。彼女はかなり戸惑っている様子だったんですけどね」

 そう言ってにこやかに笑い、アキは私に「俺に話しかけられたときどう思った?」と聞いてくる。

「それはもちろんびっくりしたよ。突然だったし」

 そう答えると、「だよねー」と笑って返される。いつもより愛想の良い彼の笑顔に、違和感を感じつつも笑って頷く。