どうするべきか。答えは簡単だった。取材は受けるべきだ。これからの活動の為にも。ただ、私は自分のことを語るのが苦手だった。抵抗があるとかではなく、苦手。自分の中に何かアウトプットできるものがあるとは思えない。
 これまでの自分の人生を振り返っても、取り立てて何か大きなイベントごとがあったような記憶はない。それなりに嬉しいことがあって、それなりに辛いこともあった。ただ、そのどれだって誰もが経験しているようなことばかりで、わざわざ話すものでもない。
 きっと彼にはあるのだろう。取り立てて話せるような何かが。幼い頃から神童と言われるような作詞作曲家。一つや二つではないのかもしれない。
 私は彼の家を出たその足で近所の本屋に寄った。音楽雑誌のコーナーへ行き、"千明暁インタビュー"と書かれた雑誌を手に取る。彼は何度か取材を受けたと言っていたため、現在も何かしらの雑誌に彼のインタビュー記事が載っているだろうと踏んでいたのだ。他のページはパラパラと飛ばし、彼のインタビューがまとめられたページを開く。

 "音楽活動を始めたきっかけはなんですか?"
 "幼少の頃に父が洋楽をよく聴いていまして、その影響ですね。よく一緒に歌ったりもしていました。そしたらある日、父が電子ピアノを買ってきて。それがきっかけで自分で勝手にメロディを作って遊び始めたんです"

 "なぜ、活動を再開されたんですか?"
 "純粋に、やっぱり自分には音楽しかないなと思ったんです。昔から音楽以外…例えば勉強も、取り立てて良くできたわけでもありませんし、スポーツもそれほど得意ではなくて。あとは単純に…お金に困ったから、でしょうか(笑)"

 "なぜユニットでの活動を選ばれたんですか?"
 "ひよの声を聴いた時に、自分の歌を彼女に歌ってほしいと思ったんですよね。彼女の歌声を聴いた時に、私の作る曲と歌詞に合うだろうと確信しました。だから彼女と共に、ユニットを組むことを決めたんです"

 それ以降も軽く読み進めたが、彼の答えは、良くも悪くもそれなりだった。ただ、求められたものを返す、ということが徹底されているように感じた。聞かれている以上のことは話さない。彼は器用な方だと改めて思う。