しばらくして、彼は部屋から出てきた。見慣れたいつも通りの彼だ。

「今日はどんな仕事だったの」

 ごろんと寝転がった彼に問いかけると、彼は「んー」と軽く唸るような声を上げて、「取材」と一言返してきた。

「取材とか受けてるんだ、知らなかった」
「うん、何回か。雑誌の…インタビュー記事」

 彼の言葉はいつもより遅くて、声もどこかふわふわとしている。眠いのだろう。

「あ、そーだ。ひよ」
「ん、なに?」
「ひよからも、話聞きたいって、言ってた」
「私からも?」
「うん」

 インタビューというものは人生で受けたことがない。引き受けるべき、なのだろうか。

「ひよが、まぁ受けてもいいかなって思ったら、でいいよ」

 いつもは勝手に事を決めて進めていくアキが、そう言って私に判断を委ねてきた。

「…受けた方がいい?」

 その言葉に返事はなかった。視線を向けると、彼は既に夢の中。彼の子どものような寝顔を見ながら、私は彼の家を後にした。