レコード会社との契約を結び、CDが発売されたといっても、私がただの女子高生であることには変わりなかった。顔出しをしているわけでもないため、街中を歩いても気づかれることもない。同級生にも何も話していないため、学校でも夏休み前と同じ毎日を過ごすだけだった。

 放課後になり、私は自分の家には帰らず、真っ直ぐ彼の家に向かう。勝手に鍵を開けて入るも、彼の姿はない。まだ出かけているのだろう。床や椅子などのあらゆるところに散らばった彼の衣服等を拾い集めて洗濯機に入れる。歌を歌っている時間以外は最早家政婦さんのようだ。
 彼の家に寄ったものの、私自身が特別何か彼に用事があるわけではない。ただ夏休みの間は彼が帰っていいと言うまで私は彼の家にいたし、一応彼の家にいた方が良いだろうかと思っただけだ。ただ彼が家にいないとなれば、どうするべきか。しばらく彼の部屋を掃除して時間を費やす。そうしているうちに、玄関の扉が開く音がした。

「おかえりー」

 返事はないものの、足音が近づいてくる。

「あれ、来てたの」
「朝に言ったけどね、放課後また来るって」
「座敷童かと思ったじゃん」
「そんなわけあるか」

 相変わらず彼は話を聞いていない。そしてまた彼の身だしなみは整えられていた。疲れ切っているようではあったけど。

「あー疲れた。もう無理」
「せめて着替えてよ。床に寝転がらないで」

 私の両親に会った時もそうだったけれど、彼は言っていた通り外出するときはきちんとした身なり、態度でいるようだ。家に帰ってきた途端かなりだらしないけれど。彼は「じゃあ着替えてくる」と寝室に入っていった。