少し前のことを思い出して、目の前にいる彼を見る。相変わらずの寝癖だらけの髪、伸びたTシャツ。本当に同一人物なのかと疑いたくなる。

「じゃあ私、行ってくるね」
「え、どこに」

 まだ寝ぼけているのだろうか。それとも、昨日の私の話を聞いていなかったのか。寝転がってリンさんを撫でていた彼は、視線だけをこちらに投げる。

「言ったじゃん。今日から学校だって」

 夏休みは昨日で終わってしまった。彼の家に通い詰めていたため、正直課題を真面目に終えたかといえばそれは頷けない。昨日彼には嘆きながら言ったはずなのだが。

「…そうだっけ」

 先ほどの2択の答えは、後者の"聞いていなかった"が正解だったらしい。

「わざわざココア淹れに来てくれたの」
「まぁ、そうなるね。そうでもしないとアキ、午後まで起きなさそうだし」
「にしても早すぎるわ」

 「7時て」という呟きの後に、「まぁでもありがとう」と返してくる彼に、「どういたしまして。じゃあ、また放課後に来るね」と返して彼の家を出た。