「千明くん」

 父が、彼の名前を口にする。

「はい」
「顔を上げてほしい」

 そういわれて、彼はゆっくりと頭を上げる。そして父と目を合わせた。

「…私は、芸能界のことには詳しくないんだ」
「はい」
「よく分からない場所に、娘を飛び込ませることには抵抗がある」
「はい」
「…君に、実力があるのは分かっている。名前が知れていることも。しかし、正直、まだ決めかねているんだ」
「…はい」

 少しの沈黙。緊張が走る。母は心配そうに父を見ていた。私は、彼と父の顔を交互に見る。

「私は」

 沈黙を破ったのは彼だった。

「陽頼さんを、守ります。路頭に迷わせるようなことは、いたしません」

 真っ直ぐな彼の瞳と言葉。初めてここまで真面目な彼を見た。どこからどう見ても、今の彼は誠実な青年だった。

「…約束、できるかい」

 父の言葉に、彼は「はい」と頷き、真っ直ぐに父と目を合わせる。