「...君は、本当に千明暁くん、なのか」

 じっと彼を見ていた父が口を開く。彼はその問いに「はい」と頷き、名刺入れから徐に名刺を取り出して、父に差し出した。いつの間に名刺なんか作ったんだろう。父はその名刺を受け取り、じっと見る。なぜかまた少し緊張したけれど、父は頷いて名刺を置いた。

「娘さんには、私の方から声をおかけしました。娘さんの…陽頼さんの声に、魅力を感じて」

 そう言って彼はスマートフォンを取り出した。

「娘さんのお力を借り、曲を作らせていただきました」

 スマートフォンから流れる音楽。

「これ、陽頼だったの…?」

 母がそう言って私を見る。

「知ってるの?この曲」
「ええ。佐藤さんが娘さんに勧められたって言ってて、私も聴いたの。まさか陽頼だったなんて…」

 母の様子を父も黙ってみていた。父は恐らく知らなかったのだろう。

「許可も得ず、勝手なことをしてしまい申し訳ありませんでした」

 彼はそう言ってまた頭を下げる。