「お母さんから聞いたけど、夏期講習会には行ってないんだって?」
「うん」
「それで、その時間何してたんだ」

 夏期講習会に行っていない、というところだけを切り取って母が話したとは少し考えにくかった。わざわざ私が怒られそうな内容だけを伝えるようなことをするような人ではないと、私は母に対して思っている。つまり、父は私の口から聞こうとしているのだと、そう解釈した。

「千明暁さんの、家に行ってた」

 私の言葉に、父はあまり驚いている様子ではなかった。やはり、母はそのことについても触れたのだろう。困惑したままだとは思うけれど。

「千明暁って、あの、昔の子どもの作曲家か」
「うん」
「...その人のところで、何をしてたんだ」
「...歌、歌ってた。彼が、公園で私に声をかけてくれたの。それで、彼の作った歌を、歌ってた」

 父は落ち着いている様子ではあったものの、納得してるわけではなさそうだった。

「...陽頼を疑いたい訳じゃないんだ」

 うん、分かってる。父の表情を見て、それはよく分かった。話が話なだけに、すんなりと信じ込むことができないのも、分かっていた。

「陽頼は、歌手になりたいのか」

 父の問いに、私は少し黙り込む。そして浮かんできたのは、彼の顔で。

「うん」

 頷いて、父の顔を見る。

「大学に行かずに、歌手にか」
「うん」

 父の硬い表情は、良いとも悪いとも取れない。父自身が悩んでいるのかもしれなかった。しばらく、沈黙が続いた。そして、その沈黙を破ったのは、ピンポーン、というインターフォンの音だった。