「何それ、冗談?」
「ううん、本当」

 何を言っても、混乱中の母には納得してもらえなさそうだった。

「...とにかく、話はお父さんが帰ってからにして」

 母もどうすればいいのか分からないのだろうな、と他人事のように思った。現実味のない娘の話に、全てを信じきってそうですか、と受け入れられるわけはない。長期戦になるだろうと、父が帰ってきてからのことを想像し、また息を吐いた。

 それから夜まで私は自分の部屋に籠っていた。母と同じ空間にいても話はきっと平行線だ。母も父が帰ってくるまで私の話を求めていないようだった。夜になって、玄関の開く音がし、私は身を硬くする。昼に玄関で感じたあの緊張感。

「陽頼、降りておいで」

 一階から母の声がして、私はスマートフォンを握り締めたまま部屋を出た。

「...おかえり」
「ただいま」

 父が私の方を見る。母は何か話したのだろうか。

「陽頼、何か話があるんだろ」

 その声に思わず目を逸らしてしまったが、頷いて父と目を合わせる。

「うん、じゃあ今聞こうか」

 そう言って父がいつもの席に座る。母もいつもの父の隣に座り、私は父の正面に座った。