母の表情は心配の中に困惑が混ざっていた。

「今日は行かなかったの?」
「ううん。夏期講習会には、最初の何日かしか行ってない」

 母はますます困惑した様子だった。

「でも、今日まで制服で出掛けてたでしょ?どこに行ってたの?」

 母の質問に、どう答えようかと言葉に詰まった。しかし、いつかは言わなくてはならないのだからと、拳を握る。

「...千明暁って、知ってる?」

 私の問いに、母は意味が分からない、と言いたげだった。

「何、突然。確か前歌作ってた子でしょ」

 母にも知られている彼のことを、こんな時にもかかわらずやっぱり凄い人なんだ、と思った。

「うん、そう。私、その、千明暁さんの家に、行ってたんだよね」
「は...?」
「千明暁さんに、公園で声かけられて。それで、アーティストにならないかって」
「待って、何言ってるの?」

 母はキャパオーバーという様子で私の話を遮る。それもそうか。私だって訳が分からなかった。