「おはよー、リン」

 ココアの湯気も消えかける頃。間延びした声と共に現れたアキは、雄の黒猫に話しかけながら出てくる。また二度寝したな、と思いつつも、彼のココアが冷めただけだから別に何も言わない。

「...冷めてる」

 猫舌とはいえあまりにも冷めたココアを手に呟かれたその言葉にはあえて触れず、私も黒猫のリンさんを撫でた。
 彼と出会って1ヶ月が経った。私の敬語が外れ、彼のことを千明さんではなくアキと呼ぶ程度には親しくなったと思う。毎日彼の家に通い詰めていれば、それも至極当たり前のことのように感じる。

 この1ヶ月は、今までの人生の中で一番目まぐるしく過ぎていったように思う。彼はほぼ毎日私に何かしらの曲を歌わせ、いつの間にかいくつか動画を投稿していた。そしていつの間にかレコード会社と話を進めていたのだった。私がそのことを知ったのは、「ひよ、契約しようと思うんだけど」というラフな一言。勿論私はその一言では何も理解できず、顔を顰める。

「魔法少女ですか」

 私の一言に、今度は彼が顔を顰めた。

「ひよってそういうこと言うんだ」

 彼の言葉に冗談を言ったことをその時は少し後悔したけれど、言葉足らずな彼も悪い。こういうことを言うのはキャラではないと思っていたけれど、彼には少々ツッコミどころが多すぎる。