その日は結局編集中の彼の隣でぼんやりと座っていただけだった。その後は特に意味のある会話をしなかった。というより、彼は編集に集中しているようだったし、私も作業中に声をかけるのは憚られて大人しくしていた。時折リンさんが退屈している私を見かねてか相手をしてくれていただけだった。それ以外でいうと一応12時には昼食を作り、その後に軽く部屋の片づけをしたのみで、アーティストらしいことは朝に歌ったのみで何もしていない。彼は一日中パソコンと向き合っていたし、私がすることはそれ以外にはなかった。

「あ、もう帰っていいよ」

 数時間経って、彼が思い出したように私の方を見てそう言い、私は「じゃあ失礼します」と立ち上がる。

「また明日、ひよ」

 そう言われて家を出たのが17時。何をしていたんだ、と思うようなスケジュールではあったけれど、苦痛は感じない。教室のあのピリピリとした空気と違って、彼の空間は穏やかで、彼の適当さや緩さも相まって気が抜けてしまうほどだ。