この一週間してきたように、今回も一度歌っただけで、彼は「お疲れ様」と一言言って私から楽譜をひらりと取り上げた。そして、ちょいちょいと私に手招きをし、ソファに座ると彼の隣をぽんぽんと軽く叩く。来い、ということだろう。私はそれに従って大人しく彼の隣に座った。彼は徐にパソコンを開き、画面を見せてきた。
「これ、今日の夜に公開するね」
映し出されているのは私がこの一週間のうちに歌った曲の一つ。どうやら編集画面らしい。公開するんだけどいいか、とか、公開前に確認してくれ、と言うわけではなく、もう既に決定事項らしい。特に反対する理由もない。私は「はい」とだけ返して頷いた。その反応を見た彼はパソコンの方に視線を移して、操作し始める。私は特に何かすることがあるわけでもなく、彼の隣で意味もなく彼の手元を眺めていた。この距離で彼を見るのは初めてだ。目元にかかる髪の間から覗く切れ長な目に、画像で見た過去の幼い彼の面影を感じた。
なぜ5年前に彼は引退したのか。インターネットには様々な憶測が飛び交っていたが、彼の口から何も語られていないため明らかにされていない。この一週間で彼について分かったことはいくつかあるけれど、分からないことの方が多かった。引退した理由も、戻ってきた理由も。
「ね、ひよ」
いつの間にか、彼は私の方を向いていた。
「なんですか」
「俺らの名前、決めてなかった」
「名前?」
あぁそうか。普通アーティストにはユニット名がついている。一曲目はアーティスト名を付けずに投稿してあったけれど、これから活動を続けていくならば必要だろう。
「ひよ、なんかつけたい名前ある?」
そう突然言われてパッと思いつけるものでもない。
「いや、特には」
「じゃあ、俺が勝手につけとく」
そう言って彼はまたパソコンに視線を戻した。元々何か案があったのだろうか。どんな名前でも、きっと私は反対しないだろうし、する理由もないのだろうと、まだ決まってもいないのに思った。
「これ、今日の夜に公開するね」
映し出されているのは私がこの一週間のうちに歌った曲の一つ。どうやら編集画面らしい。公開するんだけどいいか、とか、公開前に確認してくれ、と言うわけではなく、もう既に決定事項らしい。特に反対する理由もない。私は「はい」とだけ返して頷いた。その反応を見た彼はパソコンの方に視線を移して、操作し始める。私は特に何かすることがあるわけでもなく、彼の隣で意味もなく彼の手元を眺めていた。この距離で彼を見るのは初めてだ。目元にかかる髪の間から覗く切れ長な目に、画像で見た過去の幼い彼の面影を感じた。
なぜ5年前に彼は引退したのか。インターネットには様々な憶測が飛び交っていたが、彼の口から何も語られていないため明らかにされていない。この一週間で彼について分かったことはいくつかあるけれど、分からないことの方が多かった。引退した理由も、戻ってきた理由も。
「ね、ひよ」
いつの間にか、彼は私の方を向いていた。
「なんですか」
「俺らの名前、決めてなかった」
「名前?」
あぁそうか。普通アーティストにはユニット名がついている。一曲目はアーティスト名を付けずに投稿してあったけれど、これから活動を続けていくならば必要だろう。
「ひよ、なんかつけたい名前ある?」
そう突然言われてパッと思いつけるものでもない。
「いや、特には」
「じゃあ、俺が勝手につけとく」
そう言って彼はまたパソコンに視線を戻した。元々何か案があったのだろうか。どんな名前でも、きっと私は反対しないだろうし、する理由もないのだろうと、まだ決まってもいないのに思った。