次の日から私は夏期講習会に行くことをやめた。その代わりに、彼のアパートへと通う日々を送っている。両親にはまだ言っていない。そのため制服を着て学校とは反対方向に向かっていた。
「これ、ひよに預ける」
私の返事を聞いた彼がそう言って渡してきたのはアパートのスペアキー。出会って一日の相手に渡す彼の危機管理能力が心配ではあったが、もちろん悪用する気もないため大人しく受け取った。それから一週間が経ち、いくつか彼について分かったことがあった。
彼のマンションに着き、鍵を開ける。廊下を歩いて部屋に入るが、カーテンは閉まっていてまるで時間が止まっているよう。分かったことの一つ目。彼は朝が弱いということ。私はカーテンを開け、キッチンに向かう。ポットに水を入れてスイッチを入れ、戸棚の中からココアを取り出した。分かったことの二つ目。彼は苦いコーヒーではなく、甘いココアを好むこと。しばらくしてお湯が沸き、ココアの粉末を入れたマグカップに注いだ。
ガチャリ、と音が聞こえる。その音の方に視線を移すと、彼の寝室の扉が開いていた。そして姿を現したのは、彼ではなく黒猫のリンさん。
「おはよう、リンさん」
そういえばリンさんについても分かったことがある。勝手に女の子だと思っていたけれど、男の子だったということ。思わぬところで自分が先入観にとらわれていたことに気づく。リンさん自身は何も気にしていなさそうだけれど。
その後ろを、彼が重い足取りで歩いてくる。分かったことの三つ目。彼は私を来客だと認識していないこと。彼の身なりが整っていたのは今のところ公園で初めて出会ったときのみだ。来客の予定があればそれなりに整えると言っていたが、私に対してそうする気はさらさらないらしい。
「早起きだなー、ほんと」
少し掠れた声の主は、私を一瞥してマグカップをとる。
「おはようございます、千明さん」
「うん。おはよう、ひよ」
ふーっと息を吹きかけて、恐る恐るマグカップに口をつける。分かったことの四つ目。彼は猫舌であること。
「これ、ひよに預ける」
私の返事を聞いた彼がそう言って渡してきたのはアパートのスペアキー。出会って一日の相手に渡す彼の危機管理能力が心配ではあったが、もちろん悪用する気もないため大人しく受け取った。それから一週間が経ち、いくつか彼について分かったことがあった。
彼のマンションに着き、鍵を開ける。廊下を歩いて部屋に入るが、カーテンは閉まっていてまるで時間が止まっているよう。分かったことの一つ目。彼は朝が弱いということ。私はカーテンを開け、キッチンに向かう。ポットに水を入れてスイッチを入れ、戸棚の中からココアを取り出した。分かったことの二つ目。彼は苦いコーヒーではなく、甘いココアを好むこと。しばらくしてお湯が沸き、ココアの粉末を入れたマグカップに注いだ。
ガチャリ、と音が聞こえる。その音の方に視線を移すと、彼の寝室の扉が開いていた。そして姿を現したのは、彼ではなく黒猫のリンさん。
「おはよう、リンさん」
そういえばリンさんについても分かったことがある。勝手に女の子だと思っていたけれど、男の子だったということ。思わぬところで自分が先入観にとらわれていたことに気づく。リンさん自身は何も気にしていなさそうだけれど。
その後ろを、彼が重い足取りで歩いてくる。分かったことの三つ目。彼は私を来客だと認識していないこと。彼の身なりが整っていたのは今のところ公園で初めて出会ったときのみだ。来客の予定があればそれなりに整えると言っていたが、私に対してそうする気はさらさらないらしい。
「早起きだなー、ほんと」
少し掠れた声の主は、私を一瞥してマグカップをとる。
「おはようございます、千明さん」
「うん。おはよう、ひよ」
ふーっと息を吹きかけて、恐る恐るマグカップに口をつける。分かったことの四つ目。彼は猫舌であること。