彼は顔を上げて私と目を合わせた。そして、面白そうにくすりと笑う。

「早いね」

 一言そう言った彼の表情に、分かりきっていたのかもしれないと思った。

「じゃあ、名前教えて」

 そう言われて、そういえば一度も彼に名乗っていなかったことを思い出す。彼は私の情報を何も知らない。しいて言えば、高校生であるということと、歌声だけ。

「志島陽頼です」

 彼はリンさんを膝から降ろし、立ち上がった。

「千明暁です。よろしく、ひよ」

 彼は私に手を差し出した。ひよ、と呼んだその声に、どこか光を見たような気がした。

「よろしくお願いします」

 彼の手を握る。彼の目を見ると、彼も私と目を合わせた。その目に、吸い込まれそうになる。吸い込まれたっていいか、と思ってしまった自分に、少し笑えた。