「久しぶりってほどでもないね」

 あの日とは身なりがあまりにも異なっている彼に違和感を覚えつつも、私は一言「そうですね」と返した。あの日も特にフォーマルな服を着ていたというわけでもなかったけれど、今より数倍きっちりとしている印象だった。

「普段、そういう感じなんですか」

 思ったことを彼にそのままぶつけると、彼は軽く首を傾げて、「ああ」と納得したように何度か頷いた。

「外出するときとか来客の予定があるときはそれなりの恰好するけど、普段はね。必要性を感じないから」

 何でもないことのように言う彼。私にその恰好が見られたことを気にしている様子はない。

「それで、どうかしたの」

 彼にそう聞かれて、彼の家を訪ねた理由を思い出す。

「あの」
「うん」
「以前、作曲とか、してたんですか?」
「うん?」
「プロの方なのかなって」

 私の言葉に、彼は「んー」と曖昧に返した。もしかして、別人なんだろうか。それともはぐらかされているのか。

「……えっと、千明暁さん、ですか」

遠回しな言い方はやめて、核心に迫ることにした。私の問いに彼は、ふっと笑って「うん」と頷いた。

「動画、見た?」

 彼の問いに、今度は私が「はい」と返す。彼はまた軽く笑って、「結構評判良かったでしょ」と何でもないことのように言った。正直、良かったどころではない。再生回数も、コメント欄の盛り上がりも。

「どうだった?」

 彼はそう言って私と目を合わせる。どういう返事が求められているのかをよく分からないまま、「驚きました」ととりあえず返す。

「何に?」

 彼は軽い笑みを残したまま、そう返してくる。

「再生回数とコメントに」

 素直にそう返すと彼は「あーだよね」と笑って、「どう思った?」とまた質問を返してくる。彼に求められている回答は相変わらずよく分からない。

「皆、待ってたんだなって」

 結局、当たり障りのない返事を返した。