『なんか千明暁っぽくない?』
『神再始動!?』
『ずっと待ってた…』

 "千明暁"。その名前が、多くのコメントで挙げられている。人々はその人物を神だなんだと言って盛り上がっていた。それは、"千明暁"を知らない私からすれば、少し滑稽に思えるほどに。
 動画投稿サイトを閉じて"千明暁"で検索をかける。『数々の作曲家が認める神童、千明暁』『12歳にして大ヒット曲を数々と生み出した伝説の少年』『千明暁、数々の賞を総なめ』。数々の輝かしい功績と共にある"千明暁"という名前。そして、記事に掲載されていた写真には、一人の少年の姿があった。正装に身を包んだ彼のその表情はあまりにも冷たく、まるでカメラ越しの私を軽蔑しているかのようにすら感じられる。子どもがする表情とは思えないくらいに。
 あの日の、彼を思い出す。確かに苗字は千明だった。しかし、その表情はあまりにも印象が違う。彼の表情は柔らかいとまではいえないかもしれないが、歌う私をじっと見つめていたあの表情は、まるで好奇心旺盛な子どものようだった。
 先生が教室に入ってくるのも構わずに、私は机の下で他の記事を漁る。そして、彼を神童だ天才だと持ち上げる記事の中に、『千明暁、突如として姿を消す』『天才少年、電撃引退発表』などと書かれたものも多く見つかった。彼は、5年前に引退している。そして5年後の今、彼は私の歌声によって復活した、ということなのだろうか。
 読む気のない教科書を開いて、書く気のないノートを開く。とにかく、今日の放課後の予定は決まった。