「孤児院だけじゃない。被害にあっている他の女の子たちも救いたいからな」
「禍根が残らないようにしましょう」
「証拠も残らないようにしないとな」

 賛同するユリアーナと視線が交錯する。
 不安げな表情で口をパクパクさせているロッテをよそに騎士団の話に移る。

「半年ほど前に騎士団の半数が入れ替わったそうだ」

 半年ほど前に前騎士団団長と半数の騎士たちが中央に移動となり、入れ替わりで新しい騎士団長が二つの部隊を率いて赴任してきた。
 それが現在の第一部隊と第二部隊である。

 冒険者たちの話では、前騎士団団長は人格者で配下の騎士たちも公正な行いで評判が良かったそうだが、新しい団長と彼に率いられて赴任した第一・二部隊の評判は著しく悪い。
 横暴さが目立つくらいは可愛いもので、公然と賄賂の要求をしてくるそうだ。

「代官と騎士団、二つの上層部が変わってからは酷いものらしい」
「この街の人たちも災難ね」
「それでも御代官様が騎士団に圧力を掛けてくださっているので、他の街のように酷い目に遭わずにすんでいます」

 フォローするロッテをユリアーナが信じられないものを見るような目で見る。

「それ本当なの?」
「ロッテの言う通りらしい」
「迂闊に悪代官を懲らしめられないじゃないの」

 恨めしそうに俺を見ないでくれ。

「それもあるが、もう一つ気になる話を聞いた。ラタの街の教会の司教、つまりこの地域全体の教会を管理する責任者も変わる。この新しい司教がここから三日程の距離にあるグラの村に滞在している」
「不幸の種の予感しかしないわ」

 隣を歩いていたロッテが、両手を胸の前に組んだ。

「これも女神・ユリアーナ様の与えた試練です」
「そんな試練を与えた憶えないわよ。何でもかんでもあたしのせいにしないでくれる」
「ひっ、ごめんなさい」

 ユリアーナも理不尽な思いだろうが、怒られたロッテも理不尽な気持ちだろう。

「話には続きがあってだな、どうやらその新しい司教というのが、噂の助祭と同じように奇蹟が起こせるらしい」
「ちょっと、それって……」
「まあ! 素晴らしいです」

 信者を疑う女神と司教に対する尊敬の念に溢れた少女、二人から正反対の反応が返ってきた。