「ええ、商人だと何か問題でもあるんですか?」
「いいや、特に問題はない」
「そいつはいい!」

 隊長が渋面を作り、年配の冒険者は口元を綻ばせる。

 前線でオーガを迎撃していた冒険者たちは、ギルド経由で騎士団から出された緊急依頼を受けていた。
 契約では討伐した魔物の所有権は依頼者である騎士団にある。だが、今回はまったく関係ない旅の商人である俺が倒してしまった。

「俺たち冒険者からすれば誰が倒したって自分たちのものにはならねえからな」

 そう言って年配の冒険者は騎士団の隊長を横目で見ながら笑った。

 防衛戦もバリケードを築いただけで実戦には不参加、倒した魔物の素材も手に入らないとなると騎士団としても面目丸つぶれ何だろうな。
 オーガの素材が欲しいとは思わないが、昼間の件もあって騎士団にはいい印象もないし、ここはひとつ所有権を主張してみるか。

「魔物の数も多く戦力的に苦戦していたようなので加勢しました。それに、商人の端くれとしてはアンデッド・オーガやオーガの素材も魅力でしたので」

 魔物の素材目当てで参戦したのだと明言すると、騎士団の隊長が小さな舌打に続いて聞いてきた。

「小僧、名前は? 身分証もだ」
「シュラ・カンナギです。この国の出身ではないので身分証はありませんが、ラタの街の滞在許可証ならここにあります」

 街に入る際に門番の詰所で発行してもらった書類を提示する。
 俺とユリアーナの二人と滞在許可証を見比べると、登録するときと同じような質問が飛んできた。

「その子どもとはどんな関係だ?」
「異母兄妹です。家名が違うのは家庭の複雑な事情です」

 実家を継いだ正妻の息子である兄に追いだされ、兄妹二人だけで外国に流れてきたのだと説明した。
 すると、隊長がギョッとした表情で俺を見た。