「これも女神ユリアーナ様のご加護ですよ」
「そうですね。ユリアーナ様はとても寛大な女神様ですから」

 院長の口から乾いた笑いが漏れた。
 ユリアーナが寛大かどうかはさておき、ロッテが普段どんな態度で女神ユリアーナを信仰していたのか想像がつく。

 横でユリアーナが『あんにゃろー』とつぶやいたが、俺も院長も聞こえなかった振りをした。
 寛大さとは縁遠いことを改めて露呈させたユリアーナが本題を切りだす。

「リーゼロッテさんを引き取らせて頂くお話ですけど」
「私どもとしは大変ありがたいお話ですが、本当にロッテでよろしいのでしょうか?」
「リーゼロッテさんがこちらの孤児院を脱走するに至った経緯は本人から聞いています」

 ロッテが悪代官にロックオンされ、誘拐されかけたことを含め、すべてを承知の上でロッテを守るつもりであることを告げた。
 院長が突然涙を浮かべる。

「カンナギ様、お心遣いに感謝申し上げます」
「それ以上、何も言う必要はありません」

 少しの間、院長の咽び泣く声が静かに流れた。
 落ち着いたところで院長が話を戻す。

「ところで、ロッテがお役に立ったと伺いましたが?」

 扉の外で子どもたちが聞き耳を立てているのに配慮して院長が声を潜めた。
 とことん信用がないな、あいつ……。

「私も妹もこの国には疎く、リーゼロッテさんには多くのことを教えて頂き、とても感謝しております」