孤児院に到着すると、ロッテが戻ったことで院内は大騒ぎとなった。
 ただの失踪でも大ごとだが、権力者から付け狙われた挙句、誘拐未遂事件にまで発展した直後の失踪事件である。
 真っ先に疑う相手はロリコン悪代官。

 立場の弱い孤児院は、頼るところもなく絶望していたのだろう。
 そこへ当の本人がお土産を抱えて戻ってきた。
 真っ先にロッテに駆け寄った若い女性神官など、涙を流して彼女の無事を喜んでいた。
 だが、それも束の間。

 一分後には鬼の形相に豹変し、『お土産、お土産があるんですよー』と必死に話を逸らそうとするロッテを教会の奥へと引きずっていった。
 ロッテは泣きながら俺とユリアーナに助けを求めていたが、シスターの気持ちを考えると手を差し伸べるのは躊躇われた。

 ユリアーナに至っては、「少しは思慮深くなると助かるわー」と声が遠退いていくロッテに手を振りながらほほ笑んでいた。

 叱られたくらいで思慮深くなるなら、ロッテはこの上なく思慮深い少女になっていたはずだ。
 ロッテと入れ替わるように現れたのは三十歳前後と思われる落ち着いた雰囲気の女性神官で、名前をシスター・イーリスという。

 神聖教会の助祭であり、この孤児院の院長であると自己紹介された。彼女の案内で院長室へ通され、ことの詳細を説明することとなった。

「襲われた行商人一行の皆さんはお気の毒ですが、襲撃が成功したことで盗賊も油断していたのでしょう。馬車の積荷の確認もせずに酒盛りをしていました」

 騎士団へ報告した内容との食い違いがあると後々面倒なことになり兼ねないので、俺とユリアーナが不利になりそうなことを伏せて、できる限り本当のことを話した。

「そうですか……、積荷の中で眠っていたことが幸いしたのですか……」

 院長が疲れた表情でうつむいた。盗賊が襲撃してきたことすら気付かずに眠り続けていたことも伝えたが、院長は敢えてそのことには触れない。
 院長室を気まずい沈黙が支配した。