「孤児院のない貧しい領地ではあたしたちのような身寄りのない子どもは生きていけないか、スラム街に流れ込むしかないんです」
「教会の目的がどうであれ、孤児院のお陰で生き延びられているのも事実ですから、女神ユリアーナ様と教会にはどれ程感謝しても感謝し足りません」
「その割にはあっさりと脱走したじゃないか」
「それは、それ。これは、これですよー」

 眼が泳いでいるぞ。

「ところで、野菜や穀物の種を随分とたくさん買い込んでいたけど、孤児院に畑でも作るつもりだったの?」

 とユリアーナ。

「半分正解だ」
「半分?」

 ユリアーナが怪訝そうな表情をした。

「錬金工房の中に畑を作ってみたんだ」
「畑を作る、ですって? 収穫までどれくらいかかるのよ……」
「畑まで作れちゃうんですか!」

 言葉半ばで顔から表情が消えたユリアーナの隣でロッテが能天気に感心した。俺は途切れたユリアーナの質問に静かに答える。

「さっき撒いた種、もういつでも収穫できるぞ」
 
 時間を加速して作った腐葉土と土を混ぜ合わせた畑に種を撒き、再び時間を加速させる。
 ほんの何分間かのことだ。
 錬金工房の中は収穫の時期を迎えていた。