市場で買い込んだのは、塩と穀物などの保存のきく食料、わずかばかりの肉と野菜、そして大量の古着である。

「本当にこれだけでいいのか? こんな機会はめったにないだろうし、もっと肉を買って行ったらどうだ?」
「ありがとうございます。十分に甘えさせて頂いてます。なかなか手に入らないお肉をたくさん買っていくと後が辛くなりますから」

 屈託のない笑みで答えた。

「そうか……」

 俺が言葉を詰まらせていると、ロッテが古びた建物を指さした。

「あそこです! あれがあたしのお世話になっている孤児院です」
「教会みたいだな」

 途中、女神ユリアーナを崇めているという教会の前を通った。建物の造りや規模はまったく違うが、施された意匠がそっくりだ。

「五十年くらい前までは教会として使われていたんですよ」

 教会の払い下げか。

「ロッテちゃん、孤児院と教会って何かつながりがあるの?」
「孤児院は教会の下部組織です」

 教会が孤児院の運営をしているが、最大の目的は、未来の犯罪者を減らし、やがてもたらされる税収を増やすことだという。

 孤児院で最低限の食事を与えることで、スラムや犯罪組織に子どもが流れるのを防ぐことができる。子どもたちが働けるようになれば国力も上がり税収も増える。
 それも経済的に余裕のある領地でなければ無理な話だ。