「市場が十倍なら人口もそれなりってことだな」
「それだけ大きな街の代官となると、相応の権力を持っているでしょうね」

 十数歩前を歩くロッテに聞こえないよう、小声で会話を始めた。

「衝突せずに逃げるのも手だよな」
「平和的に懐柔って方法もあるわよ」

 賄賂か……。盗賊のお宝からなにか適当なものを渡して解決するならそれに越したことはない。

「平和的な解決策を模索しよう」
「それでも無理なら逃亡しましょう」
「いいのか?」
「衝突して犯罪者に仕立て上げられても面倒だし、これだけの規模の街を任される代官が仕事を放りだして小娘一人に執着するとも思えないわ」

 まったくだ。
 ロッテは確かに美少女だが、彼女と同程度の容姿の女性は他にもいる。
 事実、騎士団の詰所からここまで来る間、何人もの目を惹かれる女性とすれ違ったし、いまも美人とすれ違った。

「そうなると厄介なのは中年オヤジの方か」

 強欲そうな中年騎士の顔が浮かんだ。

「馬車九台分の盗賊のお宝を、そう簡単に諦めないでしょうね」
「対策は後で考えよう」

 ユリアーナをうながして屋台を覗き込んでいるロッテのもとへ駆け寄った。