「これからどうするの?」
「ロッテのいた孤児院へ行こうと思う」
「え?」
「どうした?」
「やっぱり孤児院に帰されるんですか?」

 なぜ、帰されないと思った?
 孤児院から脱走した少女を保護したんだから、普通に考えたら孤児院まで送り届けるだろ。
 だが、俺もユリアーナもその点に関して言えば普通じゃないし、何よりも今のロッテをそのまま孤児院に帰すのは危険だ。

「ロッテには孤児院へ戻らないで、行商人として俺たちと一緒に来て欲しい」
「え? いいんんですか!」

 ロッテの表情が明るくなった。

「孤児院に挨拶に行く目的の一つはロッテを引き取るためだ」
「そんなー……」

 赤く染まった頬を両手で覆い、ニヤニヤとしだした。
 チョロいなー。滅茶苦茶チョロいぞ、こいつ。
 だが、下手なことして変に警戒されるのも嫌だし、何よりユリアーナにバレたら神罰を下されそうだ。
 ここは世界の救世主、女神の助手として振舞としよう。
 奥底に湧きあがった邪な考えを振り払って言う。

「俺たちの商会で雇いたい、と正式に話をする」
「え?」

 何、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているんだ。

「手土産を用意したいから市場か商店が並ぶ通りに案内してくれ」
「じゃあ、市場がいいです。にぎやかですよ」

 楽しそうにそう言うと、足早に先を歩きだす。

「立ち直りが早いのは助かるわ」
「まだまだ子どもだよな」
「言っとくけど、たっくんとロッテちゃんは二歳しか違わないんだからね」

 年上ぶるなとクギを刺したいらしい。
 そう、二歳しか違わない。
 セーフだよなー……。
 いや、ダメだ。
 再び湧き上がった雑念を振り払ってロッテの後姿を探した。

 人通りがそれ程多くない道を足取り軽く走っている。浮かれて走るロッテの後を追って、出店や屋台が並ぶ市場へと向かった。