騎士団の詰所を出て、街中を適当に歩くこと数分。
 詰所から離れたことで安心したのか、

「それにしても頭にくるわね、あのオヤジ!」

 ユリアーナはそう吐き出すと見えない相手を殴るように拳を振り回した。

「いけ好かないヤツだったが、部下を従えていたし、騎士団の中ではそれなりの地位にありそうな中年オヤジだったから……」

 中年オヤジは盗賊のアジトには盗品の残りがあると信じ込んで上機嫌だった。空っぽのアジトを目の当たりにしたら矛先はこっちに向くよな。

「明日は揉めるかもしれないな」
「どうするつもり?」
「俺たちが移動している間に、知らない誰かが持っていたことにしよう」

 自分で言っておいて何だが、あの横暴な中年オヤジが納得するとは思えない。別の手立てを考えておく必要があるな。

「この街の騎士団って、皆あんなに横暴なの?」

 ユリアーナがロッテに訊いた。

「普段、騎士様とお話することはありませんから」
「孤児院の少女が騎士と接点がある方が不自然よね」

 二人の会話を背中で聞きながら街並みと道行く人々に意識を向ける。
 改めて街を見回すと図書館でみたイラストを彷彿とさせるような街並みが広がっていた。
 石造りの頑丈そうな建造物と木造の建造物が入り混じり、雑然とした感じはするが人通りも多く賑わっている。
 ファンタジー世界に登場する亜人と呼ばれる人と異なる種族ともすれ違った。

「このラタの街は周辺の街と比べて人口は多いのか?」
「他の街に行ったことがないのでよく分かりませんが、大人の人たちの話だと同じくらいの規模のようです」

 この街から出たことがないのに行商人の馬車に潜り込んで逃げだしたのか。
 大した度胸と行動力だ。