「それに、昨夜は怪しい男の人たちにさらわれそうになりました」

 そう言って涙を流しだした。
 決まりだ。悪代官、許すまじ。

「リーゼロッテ、君には三つの選択肢がある。一つは、ここで俺たちと別れて隣国を目指す。もう一つは隣街へと向かう。もう一つは俺たちと一緒にラタの街に戻る」
「お二人と一緒に隣国に向かう、という選択肢はありませんか?」
「あなたねー、慈悲深いあたしでも限界があるわよ」
「ごめんなさい! 希望です、希望を行ってみただけなんです」
「それで、どうするつもり?」
「どうしましょう?」

 小首を傾げるリーゼロッテに、ユリアーナがため息交じりに返した。

「聞いてるのはこっちよ」
「ヒッ、ごめんなさい」
「俺たちは三十一人の盗賊を簡単に倒せる力がある。その悪代官がリーゼロッテに迫ってきても俺が守ってやる」
「え?」

 驚くリーゼロッテの頬がわずかに赤らんだ。
 おや? これは脈ありか?

「このままじゃ他国に逃げない限り、常に悪代官の追手に怯えて暮らさないとならないぞ」
「それは……」
「必ず守る」

 彼女の手を取ると、頬の赤みが増した。
 もう一押しだな。

「リーゼロッテも故郷を離れたくはないだろ?」
「それはそうです、が……」
「俺を信じてくれ。もし、途中で信じられないと思ったら逃げだしてくれて構わない」

 彼女に金貨の入った皮袋を投げる。

「これは?」
「信じられないと思ったときに逃げるための逃亡資金だ」
「信じます! あたし、シュラさんを信じます!」

 身を乗りだして俺の手を強く握り返した。

 背後から聞こえるユリアーナの『ばっかじゃないの』という言葉は聞かなかったことにしよう。
 こうして俺たちの次の目的地が決まった。