「信じられないな」
「信じられないわね」

 俺とユリアーナの声が重なった。

「本当です、嘘は吐いていません」
「嘘を言っているとは思ってない」

 信じられないのはそこじゃない。

「街から逃げだすのに行商人さんの馬車に無断で潜り込んだのは反省しています。信じてください、悪気はなかったんです。他に方法が思いつかなくて……」

 隣街まで三日。三日分の食料を抱えて馬車に潜り込む後先を考えない行動力も信じ難いが、信じられないのは、盗賊に襲撃されたにもかかわらず、積荷に隠れたまま眠ってしまう神経の方だ。
 泣き崩れる少女を落ち着かせてようやく話を聞きだすことができたのが十数分前のこと。
 少女の名はリーゼロッテ・フェルマー。ここから半日の距離にあるラタの街の住民で三日前に十四歳になったばかりだという。
 十一歳のときに両親に先立たれて以来、地元の孤児院で暮らしていたそうだ。だが、最近赴任してきた代官に目を付けられ、身の危険を感じて街からの脱出を図ったのだそうだ。

「それでリーゼロッテはこれからどうするつもりなんだ?」
「取り敢えず隣の街に逃げ込んで、落ち着いたらどこかの商家か商業ギルドの職員として働かせてもらおうと思っていました」

 十四歳の少女がそんな簡単に職に付けるものなのか、と疑問に思っていると、

「あたし、文字の読み書きと計算ができるんです」

 そう言ってリーゼロッテがほほ笑む。