ユリアーナの手のひらから数センチメートルのところに小さな炎が浮かび上がる。
 彼女が軽く手を振ると炎は地面に転がしてあった薪にぶつかって消えた。
 続いて、地・水・火・風の属性魔石を組み込んだ剣を試した。
 こちらは盗賊たちもお手本となる魔道具を所持していなかったが、ユリアーナが心配するような結果にはならなかった。

「これで普通の魔道具が作れることが証明されたな」

 俺が作成した魔道具が特に目立つことなく売り物になることが分かった。

「魔石による魔道具作成の方はね。問題はこっちよ」

 そう言って、銀製のブレスレットを手にした。そのブレスレットは属性魔石を組み込むのではなく、ゴブリンや盗賊たちから剥奪した魔法スキルを付与した魔道具だった。

『スキルを剥奪する能力はもちろん、剥奪したスキルを付与する能力も知らないわ』、とはユリアーナ。

「俺の錬金工房だからこそ作れる魔道具だ」

 不安がないとは言わない。だが、それを大きく上回る好奇心と期待とで胸が高鳴っていた。
 それは彼女も同様のようだ。
 装着したブレスレットを見つめる瞳が輝き、口元には妖しい笑みが浮かんでいる。

「それじゃ、試してみましょうか」

 結果。

「予想通りだ」

 口では平静を装っているが、内心では今にも歓喜の叫び声を上げそうだ。対してユリアーナは驚愕を隠せずにいる。

「予想通りって……、これを予想していたっていうの?」

 錬金工房の主である俺だけが予想できたことなのだろう。
 ブレスレットに付与した魔法スキルは地・水・火・風の四つ。属性魔石と違い魔法スキルの付与では、地・水・火・風それぞれの属性で複数の魔法が使用できた。

 だが予想外の部分もあった。
 使用できる魔法は魔道具の使用者の魔法の才能に依存すると考えていたのだが、実際には違った。