夢幻の錬金術師 ~チートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

「だったら武器じゃなくて防具にしなさい。遠距離攻撃と不意打ちさえ防げれば勝てるんだから」
「身体強化と魔力障壁は展開済みだ」

 反射神経と運動機能の強化で物理的な攻撃への対処ができること、加えて鋼の鎧程度の防御力で全身を覆っていることを告げた。

「油断は禁物よ。魔法障壁を破壊してダメージを与えられる敵がいるかもしれないでしょ」

 もしそんな強大な魔力を感知していれば、とっくに警告しているはずだ。

「そんな恐ろしい魔術師はいないんだろ?」
「魔道具を持っている可能性もあるわよ」

 俺たち二人は改めて盾を装備して洞窟へと足を踏み入れる。
 洞窟の中を慎重に進む間も、奥からはいかにも盗賊らしい下品な笑い声と嬌声が聞こえていた。
 無防備すぎて警戒して進むのががバカバカしく感じる。

「この扉の向こうに二十人が集まっているわ」

 頑丈そうな木製の扉。その向こうにある程度の広さの空間が広がっているのだろう。

「扉を開けたら盗賊たちを片っ端から収納する」

 扉を蹴り破る算段だったが、扉を押すと容易く開いた。扉のわずかな隙間からなかの様子がうかがえる。

「まだ気付いていないみたいね」

 隙間の先にあったのは行商人を襲ったときの話を肴に笑いながら酒を飲んでいる盗賊たちだった。腹の底から怒りが込み上げてくる。

「方針変更だ。一気に収納するつもりだったが、一人ずつ収納して行こう。名付けて『そして誰もいなくなった作戦』だ」
「悪趣味ね」

 そう口にしたユリアーナの目には怒りの色が浮かび、口元には冷笑が浮かんでいた。
 部屋の隅で酔いつぶれている男たちを収納する。

「先ずは五人」
「気付かないものね」

 彼女の言葉を聞き流して次のターゲットに狙いを定める。たったいま収納した男を探して、辺りをキョロキョロと見回している女だ。
 そんな女に一人の男が近付く。かなり酔っているようで足元が覚束ない様子だ。

「男を捜しているのか? 俺が相手してやるよ」
「何であんたなんかと! お呼びじゃないんだよ!」

 半ば足をもつれさせて倒れ込んできた男を女が軽く突き飛ばす。
 その瞬間を待って女を収納する。

「あれ?」

 倒れ込んだ男はあたりを見回すと、隣で抱き合っている男女に聞く。

「なあ、ドロシーを知らねえか?」
「知らねぇよ! アランと奥にでもしけ込んだんじゃねえのか?」
「何言ってやがんだ。たったいまここに居ただろ」

 酔った男が立ち上がろうとしたタイミングで抱き合っていた男女を収納する。
 これで八人目。部屋にはあと十二人。

「消えた! 消えちまった!」
「何を寝ぼけてんだ?」
「そうとう酔っぱらってんな、こいつ」

 周りの男たちがからかいだした。

「酔ってないって。いや、酔っているけど、そこまで酔っちゃいねえよ!」

 抗弁するが取り合う者はいない。

「うるせえぞ!」
「少し外で頭を冷やしてきたらどうだい?」
「外の見張りと交代してこい!」
「人数が減ってる! 周りを見ろよ、何かおかしいって!」

 異変に気付いたのがお前で良かった。
「さっさと外に行きやがれ!」

 大柄な男に一喝されるとよろめきながら扉へと近付いてきた。そして、扉へと手を掛ける。だが、扉が開けられることはなかった。
 その直前に錬金工房へ収納したからだ。
 これで九人目。部屋にはあと十一人。

「おい、随分と奥にしけ込んでねえか?」
「確かに、おかしいぜ……」
「男だけでしけ込んだりしねえよな……」

 バカ騒ぎしていた連中の笑い声が消えた。

「さすがに半数近くが消えれば気付くか」
「男ばかり収納したのがまずかったわね。もう少し女も収納していれば、奥にしけ込んだと思ってもらえたかもね」

 それでも予定に変更はない。

「誰だ? 隠れてねえで出てきやがれ!」

 そう叫んだ男が辺りに注意を払いながら、立てかけてある剣へと手を伸ばした。
 次の瞬間、男の手が空を切る。男は剣があるはずの空間を振り向くと、驚いた表情を浮かべて動きを止めた。
 残念だったな、剣は錬金工房の中だよ。
 俺は目に付く範囲の武器と盗賊が装備している武器を収納する。

「武器がねえ!」
「俺の剣もだ!」

 あちらこちらで、驚きの声が上がった。

「武器庫だ! 奥に武器を取りに行くぞ!」

 駆けだした男を大勢の眼前で収納する。
 短い悲鳴が上がった。

「消えた!」
「何で消えたんだよ!」
「逃げろ! ここはヤバい!」

 盗賊たちがこちらに向かって駆けだした。恐怖の形相を浮かべた数人の男女が一目散に向かってくる。先頭の男が扉に手を駆けようとしたところで、扉ごと室内へと蹴り戻した。

「ウギャッ」

 先頭の男がおかしな悲鳴を上げ、後続の二人を巻き込む形で扉と一緒になって床の上を二度、三度と跳ねた。部屋のなかに一瞬の静寂が訪れたが、それを一際大柄な男の怒声が破る。

「誰だ、てめえら!」
「神薙修羅」
「たっくん? 唐突に何を言いだすの?」
「この世界での俺の名だ。神薙とは神を薙ぐこと。修羅とは最強の鬼。俺は神をも斬り割く最強の鬼となる! 改めて名乗ろう! 断罪者、神薙修羅だ!」
「色々と間違っているけど突っ込まないであげる」

 ユリアーナは俺を気遣うようにささやくと盗賊たちに向きなおった。

「あ、あたしのことは気にしないで。悪人に名乗る名前は持ち合わせてないから」
「ゴチャゴチャとうるせー!」
「武器も持たずに俺たちと戦う気か? 奥に武器があるんだろ? 取ってこいよ。それくらいの時間は待ってやるぜ」

 背筋に電流が走るような錯覚を覚えた。自分らしくない言葉遣いに、えも言われぬ快感が襲う。
 隙を見つけたつもりなのだろう、三人の男女が奥へと駆けだした。彼らが通路の陰に差しかかる直前に錬金工房で収納する。
 これでいくら待っても奥から武器を持って戻る者はいない。

「来るわよ」

 ユリアーナの警告にうなずきながら、飛んでくる投げナイフを収納する。

「やった! え……?」

 仕留めたと思ったか?
 女の顔から笑みが消え、顔を蒼ざめさせる。
 ナイフを投げた女を収納する。

「奥から二人、直ぐに姿を現すわ」
「OK」

 男たちが姿を現した直後に収納した。

「助けてくれ。金も武器も全部差しだす。命だけは助けてくれ」

 盗賊の一人が涙を流してその場に平伏すると、他の五人も同じように平伏して抵抗の意思がないことを示した。

「あなたたち、隊商か行商人を襲ったでしょ? 生き残りはいるの?」

 ユリアーナの質問に残りの女たちが悲鳴で答えて奥へ向かって走りだした。

 悲鳴を上げる女だからと言って容赦はしない。通路に差しかかったところで、まとめて三人の姿と悲鳴が消える。

「もう一度聞くわ。生き残りはいるの?」
「行商人の仲間なのか?」
「荷物は返す、助けてくれ」

 涙を流して懇願する男たちにユリアーナが三度問う。

「生き残りはいるの?」

 三人の肩がビクンッと跳ねた。

「……いねえ」
「殺すつもりはなかったんだ。本当だ」

 泣き叫ぶ二人と鬼の形相でユリアーナへと向かってきた男を同時に収納する。
 部屋のなかに静寂が訪れた。

「これで全員か?」
「少なくとも魔力感知には何も引っかからないわ」
「盗賊たちが貯め込んだ盗品を頂くとしよう」

 俺たちはアジトの奥へと歩を進めた。
 盗賊が貯め込んでいた盗品を収納した後、俺たちは盗賊のアジトで一夜を明かした。
 ベッドの上で気持ちよさそうに伸びをするユリアーナが、顔を輝かせて提案する。

「ねえ、たっくん。野営用に小屋を造りましょうよ」

 それはもはや野営ではない気がするが、雨風をしのげる空間が欲しいのは俺も同じだ。
 幸い周囲は森と岩場のため、建材は十分にある。金属類も鋼の武器を中心に盗賊たちの為込んでいた武器類が、洞窟の奥にあったので材料に困ることはなさそうだ。

「食事をするスペースと寝室、キッチンとトイレ、風呂があればいいか?」
「お風呂、いいわねー。出来れば温泉が欲しいところだけどー」
「さすがにそれは無理だろ」
「どこかで温泉を見つけたら大量の源泉を収納しましょう」

 収納容量がどれくらいあるか知らないが、俺とユリアーナなら問題なく実現できそうでヤバい。
 寝室は当然別々になるから、2LDKでトイレ付、風呂は大きめってところか。練習がてら造ってみるとしよう。

「分かった。取り敢えず作ってみるからそれを見てから意見をくれ」
「馬小屋にいる馬も全部持ってくわよ」

 洞窟の外に馬小屋があり、そこに三十頭以上の馬が繋がれていた。
 公用語スキルを付与した二頭の馬も昨夜はその馬小屋で一晩を過ごしている。約束通り飼葉を大量に用意したので心行くまで食べているはずだ。
「その前に盗賊のお宝ね」

 俺たちはアジトの奥にある収納庫へと向かった。

「随分と羽振りのいい盗賊だな」
「街道沿いだし、隊商やら行商人が幾つも往来していたんでしょ」
「本当にこれを全部俺たちが貰っても大丈夫なのか?」

 無造作に積み上げられた盗品と思しき品物の山は、一般的な馬車十台分はありそうな量だ。

「尋問した盗賊たちも言ってたじゃないの、盗品は盗賊を討伐した者に所有権が移るって」
「確かに言っていたな」
「当面の生活費も必要でしょ? それに街に到着したときに所持金が無いというのもわびしいものがあわよー」
「郷に入っては郷に従え、とも言うしな」

 移動手段としての馬車も欲しいし、武器や防具にしても最低限の装備は整えておきたい。ここは盗賊の資産をありがたく使わせもらうとしよう。
 武器や防具と同様、部屋に積み上げらえていた品物を錬金工房へと収納した。

「次は武器と防具ね」

 盗品の中から真っ先に貨幣を寄り分けて、武器と防具の作製に移る。

「武器と防具は盗賊を襲撃のときに作成したモノじゃダメなのか?」

 自分が身に着けている武器と防具を見る。
 昨夜、盗賊のアジトを襲撃するにあたって、俺たちを襲った盗賊たちから剥ぎ取った剣を再加工し、刀身が黒塗りの日本刀とショートソード、さらに数振りのコンバットナイフを作成していた。
 防具も同様に一般的な革鎧や籠手など一式をあつらえてある。

「予備と飛び道具が欲しいわね」
「完了だ」

 予備の武器と防具、弓矢を作成したことを告げる。

「それと、魔石があったでしょ?」

 盗品の中にあった魔石は全部で五つ。
 火属性の魔石が二つに水属性の魔石が一つ。土属性の魔石が一つ、風属性の魔石が一つ。

 これにゴブリンが持っていた闇属性の魔石が二つ。
 これが俺たちの手持ちの魔石だ。

「それで魔道具を作りましょう」

 ユリアーナの弾む声が洞窟内に木霊した。
 作成した魔道具効果を確認するためアジトの外へと来ていた。

「それじゃ、闇属性の指輪から試しましょうか」

 ユリアーナは闇属性の魔石を組み込んだ二つの指輪、『睡眠の指輪』と『麻痺の指輪』を装着すると虚空を見つめたまま動きを止めた。

「どうした?」
「成功よ」

 口元に笑みを浮かべて二つの指輪を外す彼女に聞く。

「今、何かしたのか?」
「魔法を発動させたの」

 何もない空間に向けて発動させたので見た目には変化が生じないが、魔力感知ができる彼女は魔法が発動したことを確認できた。

「盗賊が装備していたブレスレットと同様の機能ね」
「そのブレスレットを参考にして作成したんだから当然だろ」
「たっくんが作ったから、永遠に眠り続けたり、死ぬまで麻痺したままだったりと、実用性を無視した方向で高性能なんじゃないかと心配したのよ」

 ユリアーナが『杞憂だったようね』とほほ笑む。
 心配なのは理解できるが、もう少しオブラートに包んだ発言ができないものだろうか。
 釈然とせずにいると、彼女は次の指輪へと手を伸ばした。

「これは『火の指輪』ね」

 これも盗賊が所持していた指輪を参考に作成した。
 この周辺の国々では中層階級の住民たちの間で、標準的に利用されている魔道具だと盗賊たちから説明を受けた。
 ユリアーナの手のひらから数センチメートルのところに小さな炎が浮かび上がる。
 彼女が軽く手を振ると炎は地面に転がしてあった薪にぶつかって消えた。
 続いて、地・水・火・風の属性魔石を組み込んだ剣を試した。
 こちらは盗賊たちもお手本となる魔道具を所持していなかったが、ユリアーナが心配するような結果にはならなかった。

「これで普通の魔道具が作れることが証明されたな」

 俺が作成した魔道具が特に目立つことなく売り物になることが分かった。

「魔石による魔道具作成の方はね。問題はこっちよ」

 そう言って、銀製のブレスレットを手にした。そのブレスレットは属性魔石を組み込むのではなく、ゴブリンや盗賊たちから剥奪した魔法スキルを付与した魔道具だった。

『スキルを剥奪する能力はもちろん、剥奪したスキルを付与する能力も知らないわ』、とはユリアーナ。

「俺の錬金工房だからこそ作れる魔道具だ」

 不安がないとは言わない。だが、それを大きく上回る好奇心と期待とで胸が高鳴っていた。
 それは彼女も同様のようだ。
 装着したブレスレットを見つめる瞳が輝き、口元には妖しい笑みが浮かんでいる。

「それじゃ、試してみましょうか」

 結果。

「予想通りだ」

 口では平静を装っているが、内心では今にも歓喜の叫び声を上げそうだ。対してユリアーナは驚愕を隠せずにいる。

「予想通りって……、これを予想していたっていうの?」

 錬金工房の主である俺だけが予想できたことなのだろう。
 ブレスレットに付与した魔法スキルは地・水・火・風の四つ。属性魔石と違い魔法スキルの付与では、地・水・火・風それぞれの属性で複数の魔法が使用できた。

 だが予想外の部分もあった。
 使用できる魔法は魔道具の使用者の魔法の才能に依存すると考えていたのだが、実際には違った。