「だったら武器じゃなくて防具にしなさい。遠距離攻撃と不意打ちさえ防げれば勝てるんだから」
「身体強化と魔力障壁は展開済みだ」

 反射神経と運動機能の強化で物理的な攻撃への対処ができること、加えて鋼の鎧程度の防御力で全身を覆っていることを告げた。

「油断は禁物よ。魔法障壁を破壊してダメージを与えられる敵がいるかもしれないでしょ」

 もしそんな強大な魔力を感知していれば、とっくに警告しているはずだ。

「そんな恐ろしい魔術師はいないんだろ?」
「魔道具を持っている可能性もあるわよ」

 俺たち二人は改めて盾を装備して洞窟へと足を踏み入れる。
 洞窟の中を慎重に進む間も、奥からはいかにも盗賊らしい下品な笑い声と嬌声が聞こえていた。
 無防備すぎて警戒して進むのががバカバカしく感じる。

「この扉の向こうに二十人が集まっているわ」

 頑丈そうな木製の扉。その向こうにある程度の広さの空間が広がっているのだろう。

「扉を開けたら盗賊たちを片っ端から収納する」

 扉を蹴り破る算段だったが、扉を押すと容易く開いた。扉のわずかな隙間からなかの様子がうかがえる。

「まだ気付いていないみたいね」

 隙間の先にあったのは行商人を襲ったときの話を肴に笑いながら酒を飲んでいる盗賊たちだった。腹の底から怒りが込み上げてくる。

「方針変更だ。一気に収納するつもりだったが、一人ずつ収納して行こう。名付けて『そして誰もいなくなった作戦』だ」
「悪趣味ね」

 そう口にしたユリアーナの目には怒りの色が浮かび、口元には冷笑が浮かんでいた。