「もう十分だろ?」
「まだよ。言質を取ってからね」

 文字通り女神様の愛らしい笑みだ。

「あたしたちをどうする気かしら?」

 そう言葉を発したときには、たった今、俺に向けられた愛らしい笑みは消えていた。そこにあったのは酷薄な笑み。

「まずは俺たちのお屋敷にご招待だ。そこでたっぷりと楽しんでもらったら街へ連れてってやるよ」

 何が待ち受けているのか容易に想像ができるような言葉をわざと選んでいる。
 彼女が怯えるのを見て楽しむつもりなのだろう。

「そっから先は貴族や金持ちの商人のところだ」
「もしかしたら外国に連れてってもらえるかもな」

 盗賊たちの下品な笑い声が沸き起こる。
 大声で笑う盗賊たちにユリアーナが冷笑を浴びせた。

「あなたたちは人さらいね? あたしたちを奴隷商人に売るつもりなんでしょ?」
「良くできました」
「お嬢ちゃんはこっちのガキと違って賢いな」
「たっくん、やっちゃって」

 盗賊たちの笑い声が響くかな、ユリアーナのささやきが俺の耳に届いた。
 次の瞬間、笑い声もろとも盗賊たちが消える。

「終わったよ」
「ご苦労様」
「こいつらどうする?」
「情報を聞き出したいから、取り敢えず拘束した状態で一人吐き出してくれる?」
「アジトを襲撃するのか?」

 自分でも声が弾んでいるのが分かる。
 俺は武装解除した盗賊の一人を手枷と足枷をで身動きできない状態にして地面に転がした。

「なんだ? てめえら、何をしやがった!」
「これからあなたに質問をするから正直に答えてね」

 ユリアーナが楽しそうに告げた。

「おい、お前らこいつらを痛めつけろ!」

 自由にならない手足を必死に動かして大声を張り上げた。
 状況が把握できていないようだな。
 この男にある最後の記憶は、武装した仲間たちで俺とユリアーナを囲んで笑っていた瞬間なのだから無理もない。

「誰もいないぞ」

 地面に転がった男は初めて周囲を見回す。

「皆、あなたを見捨てて逃げていったわよ」

 男が顔を蒼ざめさせた。
 自分が独り取り残され、拘束されていることをようやく理解したようだ。