自分自身が敵の位置を把握できていないことに多少の不安はあったが、恐怖で足がすくむこともなければ混乱することもなかった。
 普段以上に頭が冴えているのが分かる。

「本当に一人で大丈夫?」
「問題ない」
「弓矢を持っているのが三匹と片手剣を手にしているのが二匹」

 彼女の視線の先に目を凝らした。

「その五匹を視認した」

 言葉と同時に錬金工房を発動させる。
 弓矢を手にした三匹のゴブリンとその両側を歩いていた二匹のゴブリンを瞬時に取り込んだ。
 成功したことに俺は胸を撫で下ろす。

「鮮やかなものね」

 感嘆の声に続いて、ゴブリンの位置を知らせるささやきが耳に届く。

「左の方に三匹。もうすぐ茂みから出てくる」

 的確な指示だ。
 すぐに三匹のゴブリンが茂みから姿を現し、そして消える。
 突然ゴブリンたちが騒ぎ出した。

「異変に気付いたようね」

「ユリアーナはゴブリンだけでなく、周辺を警戒してくれ」
「言うじゃないの」

 そう言って口角を吊り上げると、

「任せてちょうだい」

 愛くるしい大きな目でウィンクをした。それとほぼ同時に四匹のゴブリンが姿を現す。
 残ったゴブリンたちは周囲を警戒しているというよりも、何が起きたのか分からずに慌てふためいているように見える。

「警戒していても慌てふためいても一緒なんだけどな」

 独り言を口にしながら残る四匹のゴブリンを錬金工房へと取り込んだ。