ユリアーナの視線の先に意識を集中する。

「無理よ。まだ視認できる距離じゃないわ」
「どうして分かったんだ?」
「魔力感知よ。さっきのクマは魔力がなかったから、近付かれるまで分からなかったけど、魔物は魔力があるから分かるの」

 魔力専用のセンサーみたいなものか。

「距離は?」
「およそ一キロメートル。敵はまだこちらに気付いていない、と思う」

 俺は取り込んだ樹木で全身が隠れる大きさの盾を二つ作成し、一つをユリアーナに差しだす。

「少しはマシだろ」
「ありがとう」

 お礼の言葉に続いて彼女が言う。

「隠れてやり過ごすか先制攻撃をかけるかよ」
「先制攻撃を仕掛けよう」
「敵の正体が分からないのに?」
「こちらが敵の正体を確認する手段は視認しかないんだ。もし敵が犬やオオカミみたいに鼻が利く魔物だったり、聴覚が異様に優れた魔物だったりしたら、隠れても発見される可能性が高いんじゃないのか?」
「ええ、それはそうだけど……」

 ユリアーナが不安そうに言い淀む。

「だったら見えるところまで近づこう」
「その選択肢は身体強化をそれなりに使えるようになってからにして欲しかったわ」
「百メートルだ。百メートルまで近寄ることができれば、錬金工房に収納することができる」

 クマを生きたまま収納できたのだ。それが魔物だとしても生きた状態で収納できるはずだ。
 俺の言わんとしていることを理解したのか、ユリアーナが静かに首肯する。

「いいわ、やりましょう」

 俺たち二人は、ユリアーナの魔力感知を頼りに風下から敵の側面へと回り込むように近付いて行く。
 しばらく進んだところで彼女の動きが止まった。

「ゴブリンよ」

 その視線の先を見ると、深緑色の皮膚をした小柄な魔物が周囲を警戒しながら進んでいた。

「数は分かるか?」
「魔力感知に引っ掛かったのは十二匹」