猛獣は少年と少女を視界に捉えたまま、樹木の間を抜けて川沿いの広い空間へと移動する。

「それこそ無理よ。力がほとんど失われているんだから、属性魔法なんて申し訳程度のことしかできないわ」
「それじゃ怪我したって直せないんじゃないのか?」
「それは大丈夫。光魔法だけは健在よ」

 恐怖の元凶が少年に向かって、突如、駆けだした。
 樹々をなぎ倒し、地面を揺らす。
 全身に伝わる振動が恐怖心を増幅させる。

「魔力による身体強化ってどうやるんだ!」

 意を決した表情で少女が少年の傍らに駆け寄る。
 瞬く間に距離が詰まる。少年との間に残された距離は百メートル!

「身体強化の方法を教えてくれ!」

 切迫した声が響く中、彼女の左手が少年の背中に触れた。

「分かる? いま、強制的に魔力を身体中に循環させて身体強化を図ったわ」

 咆哮が空気を震わせた。
 少年の心臓が跳ねる。鼓動が早まる。
 五十メートル!
 迫る巨体が少年の視界一杯に広がる。全身から汗が噴きだしたような錯覚を覚える。
 同時に身体強化とは別の力を感じていた。少年は身体の奥底に感じる力に意識を集中する。
 自分が持つ力を瞬時に理解した。

「これが、俺の力……」

 高揚感が少年の中で急速に膨れ上がった。