「なるほど、カンナギ殿の妹さんか。こんな可愛らしい妹さんが二人もいるとは、カンナギ殿が羨ましい」
「ユリアーナはもちろんですが、ロッテに巡り合ったことは、この上ない幸運だと思っております」

 勝ち誇った笑みを浮かべる傍ら、

「シュラさんったら~」

 ロッテが独り言を口走りながら、キャッキャ、ウフフと身をくねらせる。

 そんな彼女をチラチラと横目で見ながら、ロッシュが引きつった笑みを浮かべた。
 完全に余裕の笑みが消えた。

 ロッテを誘拐できなくなったことがよほど悔しいようだ。
 俺が勝利に浸っていると、ロッテ誘拐未遂の詳細を知っている鑑定士が慌てて話題を引き戻す。

「カンナギ殿はベルグナード王国からこられたのですが、将来的には我が国への移住も考えていらっしゃるそうです」
「ベルグナード王国か、随分と遠いところから来たんだな」

 いましがたまで見せていた引きつった笑みはもうない。その表情には余裕すら伺える。
 立ち直りが早いな。

「実家の影響力が及ばないところで商会を立ち上げたいと思いまして」
「お兄さんに邪魔されたくはない、というところか」

 代官が探るように俺を見た。

『事情は把握しているぞ』という顔である。

 こちらが用意した設定を『自らが探り出した』と思い込んでいるようだ。この代官、思った以上に扱い易いかもしれない。

 俺は内心ではほくそ笑みながらも、表面的には少し困った顔で鑑定を見る。
 すると鑑定士がバツの悪そうな顔で取り繕う。

「すみません。カンナギ殿のことをロッシュ様にご紹介するにあたり、その、隠しごとをするのはよくないと思いまして」
「彼を責めないでくれ。私が無理に聞いたんだ」

 代官が余裕の笑みで助け舟を出した。

「素性の知れない者と会うわけにもいかないでしょう。必要な情報収集だと承知しております」
「そう言ってもらえると助かるよ」

 特に追及する様子はなさそうだ。
 五つほど離れた、ほとんど国交のない国を故郷として設定したのは正解だったようだな。