彼女の魔力はかなり増強していた。それに比例して魔力による身体強化も格段に強化されており、並みの騎士など足元にも及身体能力を発揮している。

「勘弁してください。彼女はもううちの商会になくてはならない人材なんですよ。それに商人になりたいと言うのも、私たち兄妹と一緒に来たいと言うのも彼女の希望です」

 年配の騎士は『別にとったりしないから安心しろ』と言って笑うと、

「働き者だし気立てもいい。それにあれは将来美人になるぞ」

 そう付け加えた。
 同感だ。抜けたところもあるがそこも可愛らしいと言えば可愛らしい。元の世界に戻らなかった場合、ロッテを嫁さんにしてもいいかもしれないな。

「とてもよくやってくれています」

 将来美人になる云々について下手に言及すると不名誉な噂が広がりかねないので触れずにおこう。

「大事にしろよ。逃がしたら後悔するぞ」
「ご忠告ありがとうございます。大切にします」

 年配の騎士が照れた演技をする俺からユリアーナに視線を移した。

「それに引きかえお前さんの妹はまるで働かないな」

 同感だ。

「実家では奉公人に指示を出すだけでしたから……」

『女神様なので』とは言えない。

「俺の知っている商家の娘ってのは、どんな大商人の娘でも皆働き者なんだがな」
「国が違うので、その辺りも違うのかと」
「まるで貴族のお嬢さんみたいだな」

 言わんとしていることは分かる。

「父親に甘やかされて育ちましたからね」

 ボロがでないうちに切り上げたいと思ったところに、若い騎士見習いに声を掛けられた。

「シュラ・カンナギはお前か? 魔術師ギルドから使いがきている」
「使いの方はどちらに?」

 騎士見習いが視線で扉の一つを示した。
 俺が視線を向けると扉のすぐ側に立っていた男が軽く会釈を返してよこした。