「この部屋に残りの盗品があります」

 錬金工房に収納した盗品の半分近くを元々盗品が置かれていた部屋へと戻し、その部屋の扉を開けた。
 扉の向こうに見える盗品の数々に騎士たちが歓声を上げる中、パウル隊長が忌々しげに俺とユリアーナを見た。

「残した盗品がこれというと事は、お前たち二人の異空間収納にはもっと価値のある盗品があるんだろうな」
「私たち兄妹は商人ですから」

 当然、価値のある品を優先して取得すると暗に答える。

「ふん、まあいい。よし、運び出せ」

 パウル隊長が指示すると五人の騎士たちが一斉に盗品運び出しに掛かかった。
 次いで俺たちに向かって言う。

「何をしている。お前たちも手伝わんか!」
「あら? 案内だけの約束ですよね?」
「な……!」

 予想はしていたが案の定のやり取りだ。

 当たり前のように手伝いを要求するパウル隊長と『喧嘩なら買うわよ』という態度のユリアーナ。
 ユリアーナはもちろん、絶句するパウル隊長も引く気がなさそうだ。

「え? そんな……、お手伝いしましょうよ、シュラさん」

 狼狽えたロッテが両手を胸の前で組み、まるで祈るような姿勢で俺を見た。

「パウル隊長、妹は契約や約束事に厳しいんですよ。妹の分も俺がお手伝いしますからここは穏便にお願いできませんか?」
「あたしも、あたしもお手伝いします。一生懸命働きますよ!」

 勢い込んで協力的な姿勢をアピールするロッテに気付かれないよう、俺はパウル隊長に金貨の数枚の入った革袋を握らせる。

「街に戻ってからの荷下ろしも手伝わせて頂きます」
「そうだな、子どもに手伝わせるのも風聞が悪いか。よし、街に戻ってからも頼んだぞ」
「はい、お役に立たせて頂きます」

 よし、これで無事に街まで帰れそうだ。

 盗品を街まで持ち帰ったところで第二部隊がなだれ込んでパウル隊長以下、関係者が一網打尽となる。こいつの茫然自失とした表情を特等席度拝めるとなれば荷物を運ぶくらい苦でもない。
 俺はパウル隊長を陥れる計画を反芻しながら盗品を荷馬車へ積み込む作業を進めた。