「おい、小僧! 盗賊のアジトはまだか!」

 後ろを走る荷馬車から不機嫌そうな叫び声が聞こえた。
 声の主は第一部隊のパウル隊長。その脂ぎった顔と態度は不機嫌さを隠そうともしていなかった。

 まったく何てヤツだ。盗賊を討伐した功労者である俺たち上前を跳ねようとするだけでなく、案内をする俺たちに、埃っぽいだの道が悪いだのと、思いだしたように八つ当たりをしていた。

「まだ先です、あと一時間はかかります」

 攻撃魔術を撃ち込みたくなる衝動を抑えてにこやかに愛想よく返事をすると、何やら悪態を吐いて座り直す。
 俺たちは二台の荷馬車で盗賊のアジトを目指して街道を進んでいた。目的は盗賊のアジトに残してきたという設定にした盗品を回収するためである。

 先導するのはロッテが操る馬車で荷台には俺とユリアーナが乗っている。後続の荷馬車にはパウル隊長を筆頭に第一部隊の騎士たちが十人。
 小隊二つ分だ。

 その人数と騎士たちの顔つきから不穏な未来を想像してしまう。

「盗品を積み込む手間や魔物に襲われる危険性を考えたとしても過剰な人員よねー。もしかして私たちを始末することも視野に入れてたりして」
「ありませんよね? 騎士団が善良な住民を襲うとかありませんよね?」

 ユリアーナが楽しそうに口にした不穏な予想にロッテが泣きそうな顔で反応した。

「あるんじゃない?」
「いやいや、ないでしょ」
「仮に襲われても、たっくんの創った魔道具があるから大丈夫よ。ロッテちゃん単独でも十分に撃退できるから」
「その魔道具ですが、使いこなす自信が微塵(みじん)もないんですけど」

 ロッテの反応が可愛らしかったので、つい、黙って見ていたがそろそろ助け舟を出すか。