「それが例の魔道具?」
「ああ、機能は保証する」
「片方を錬金工房の中から助祭の枕元に転移させる。もう片方から話しかければ通話が可能だ」

 俺は一方の像を助祭の枕元に転移させ、もう一方をユリアーナに差し出した。

「先ずは助祭を起こすところからね」

 彼女はそう言いながら像を受け取ると、(おごそ)かな口調で像に語りかけた。

「フランツ・オットー、聞えていますか?」

 ユリアーナの手にした像から微かな寝息が聞こえた。

「フランツ、フランツ・オットー。目を覚ましなさい」

 返事はない。聞えるのは寝息だけである。

「もしかして、名前が間違っているんじゃないかしら?」

 助祭の名前を調べたのがロッテなので、その可能性はあるが、この場合名前の間違い何て些細な問題だろう。

「いま、助祭を起こしてやるから待ってろ」
「何をするつもり?」
「女神様っぽいことだ」

 錬金工房内の赤ワインを一滴(ひとしずく)、助祭の額に落とした。
 反応がないのでさらに一滴落とす。

「う、ん……」

 ユリアーナの手にした像から助祭の声が聞こえた。
 すかさずユリアーナが像へ語り掛ける。

「フランツ・オットー、目を覚ましましなさい」

「どなたかいらっしゃるのですか?」

 落ち着いた声が返ってきた。